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カムイ

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 10日ほど大人しくしていると、身の回りの世話をしていた女中や従業員たちは、気を緩め出した。鈴が問えば、いろいろな話をしてくれるようにもなった。
 なぜ、父が炭坑(あな)の中に入っていたのかは分からないままだったが、父や、一緒に炭坑の中にいて怪我をした作業員たちは、順調に回復してきていること。設備の修理などに要する資金の工面が付いていること。採掘作業も順調に進み始めたこと、など。
 また、雄作の不在がいつなのかも、知ることができた。
 専務である兄・雄作の事務所の部屋には、ライフル銃があるのを知っている。荒くれ男たちの中にあって、時には彼らを威嚇する必要があるために所持しているのだ。

 鈴は、今雄作が、国からの炭鉱視察団を案内していることを知り、部屋には誰もいないのを見計らって忍び入ると、うろ覚えの番号を何度か試した後に、金庫の中にしまわれていた銃と弾薬を取り出した。
 部屋を出て行こうとしたところで、雄作が部屋に戻ってきたのと鉢合わせした。

「何をしていたのだ」
 鈴は後ろに下がって、とっさに銃を背中にまわして隠したが、隠しおおせるものではない。
「カムイのところへ、行くつもりだったのか?」
と問い詰められ、顔を天井にそむけて黙っていた。
「兄の問いかけに答えられないのか! しかも黙って銃を持ち出そうとするなぞ、とんでもないやつだ!」
 そうして顔を平手で殴りつけられて、その拍子によろけて倒れ、持っていた銃で、自分自身の顔をしたたかに打ち付けてしまったのだ。

「家を出て行くというのなら、もうお前は、妹でもなんでもない。好き勝手にどこへでも行くがいい。その代わり、二度と戻って来るんじゃないぞ」
「銃は、もらって行くからな」
と言って起き上がると、荒々しく足を踏み鳴らして、その部屋から立ち去ったのである。
作品名:カムイ 作家名:健忘真実