カムイ
道産子(野生馬)“月”
月毛の野生馬を追いかけ始めて、10日になる。
2週間前の夜。
「とぅちゃん、うまがいるよ。川のむこうに5とう見たんだ」
と言うセタエチの言葉には半信半疑だったのだが、翌日の昼、川の水を飲みに来ている馬を見つけたのである。川の表面は凍りついていたが、ところどころ氷が割れて、水が流れている場所があった。そこに、水を飲みに来ているのだ。
話には聞いていた。
松前藩の藩士がこの地に南部馬を持ち込み、領国に帰る時に原野に放した、という馬たちだ。
厳しい環境に耐え、繁殖してきた馬だろう。ここの寒さの中で飼育していくなら、ここで生まれ、暮らしてきた野生馬がふさわしいのだ、と気付いた。
カムイが見た馬は、鈴が育てている西洋馬よりも小さく、たてがみは長く豊かであり、たっぷりとした尾毛、そして全身に太陽光を受けた時には、金色に光り輝いて、その神々しさに呆然となって見入ってしまったほどである。ほかの4頭を従えているようにみえる。
その堂々とした立ち姿に、ひとめ見て虜となってしまったのである。
また、四肢を大きく曲げて一瞬宙に浮き、着地と同時に後ろ脚を蹴りだすしなやかに伸びた四肢。その走っている姿は躍動感があふれ、力強さがみなぎっており、口をあんぐりと開けたまま見入ってしまうほど、いつまで見ていても飽きるということがなかった。
初めはセタを使って小さな渓谷に追い込み、行き止まりとなったところで、網をかぶせて捕まえるつもりでいた。
しかし、その馬は鹿のように、雪の付いた険しい崖を軽々と登って行ったのである。まさか、険しい山肌を登れるとは思ってもいなかったので、ますます、その馬の魅力に取りつかれてしまった。
淡い黄褐色をした、月毛の馬。
『月』という名を付け、なんとしても自分の馬にしてみせるんだ、と意気込んだ。