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カムイ

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 カムイが小屋を出てすぐに、セタエチとセタは文左衛門の小屋を訪れていた。食べ物と酒などの必要とする物を持って、揃ってカムイの小屋に向かっている時に、一陣の風が吹きよせた。
 鼻腔を上げて付近をうろつきまわった後、ゥオオオゥゥゥゥと遠吠えしたかと思うと、セタは雪を蹴立てて走り出したのだ。
 おそらくカムイの臭いに混じって、オオカミの血の臭いをかぎ取ったのであろう。
「セタ!」
 追いかけようとするセタエチを、文左衛門は引き留めたのだという。


 馬とオオカミの死体はそのままにして、カムイはセタを伴って、幌内の炭鉱の建物が見える所まで来ると、そこから、鈴の姿が小さくなるまで見送った。鈴は、何度も振り返って見ていた。
 札幌へと通じる道は、幅を広く取って作られ、道の雪は両端に綺麗にかきよけられて、馬車の轍(わだち)の跡が幾本も残っていた。
 
 その頃の道路建設や鉱山採掘には、北海道各地に作られていた集治監の、囚人たちを使役することで進められていた。厳しい監視下での過酷な労働によって、南下政策を取るロシアに対する軍用道路としても、開拓が急ピッチで進められていたのである。鎖を付けられたまま服役させられ、その上、少ない食事での深夜にも及ぶ長時間労働によって多くの死者が出ているが、死亡した囚人は鎖をつけたままの状態で土をかぶせられて、土まんじゅうの塚がいくつも出来ていた。
 それは、“鎖塚” と呼ばれて現在3基残っており、鎖塚供養碑と六地蔵が建立されているそうである。
 囚人やアイヌ先住民、強制労働に従事させられた人々によって、北海道は開拓・開発されていったのである。
 そういったことを知るはずもないカムイは、著しく進化していく文明社会に、ただ感じ入っているばかりであった。
作品名:カムイ 作家名:健忘真実