カムイ
ブビョ〜ン、
鈴は弓の弦を引きしぼって矢を放ったが、男用に作られた弦を引くのには力を要する。矢は、狙いを付けたオオカミにまでは届かない。もう1本をと、矢筒から引き抜いている時、舌舐めずりをしている別のオオカミが鈴の近くまで来て、今まさに襲いかかろうとしている。
鈴は、矢を放つことに神経を集中させていて、オオカミが近寄ってきていることに気付かないでいる。
それに気付いたカムイは、鈴に思いっきり跳び付いて押し倒し、すぐに向き直ると、鈴に跳びつこうとして大きく跳躍したオオカミの腹目がけて、刀を一閃した。
チニタが残してくれた山刀は、よく切れた。
その山刀で初めて切ったオオカミは、骨までがぶっち切れ、胴でまっぷたつとなって地に落ちた。血しぶきはプシューと勢いよく吹き出し弧を描くと、白い雪の上に、赤い花びらのように散らばった。
カムイと鈴にも、その飛沫がふりかかる。
鈴は、恐怖で震えている。
すでに何度かオオカミと闘ったことのあるカムイは、オオカミの間合いを熟知していた。
「弓に矢をつがえて、待て!」
と、鋭く言い放たれた言葉を受けて我に返った鈴は、体を立て直し震える手で、やっと矢筒から矢を引き抜くと、弓の弦に引っ掛けた。が、震えは止まらず、何度もかけ損ねて出来ずにいる。
鈴の後ろに回ったカムイは、足元に山刀を落として、後方から鈴の両手に自分の手を添わせると、思いっきり弦を引いて、狙いを定めた。
鈴はそのままの姿勢で手だけを離し、カムイは荒い呼吸を一瞬止めると、弦から手を放した。
リーダーとおぼしきオオカミには動く間も持たせず、ヒュッと勢いよくまっすぐに飛んだ矢は、その額を貫いていた。