カムイ
鈴は、生娘だった。
カムイは加代への想いを、加代の面影を持つ鈴に、投じた。
鈴は苦痛に耐えた。
心の痛みと、体に受ける、痛み。
だが、武士の娘だという誇りを、未だに有している。
お家を守るためなのだ・・・鋭い痛みが、体を貫いた。
のけぞり、声を殺して、こらえる。
一筋の涙が、鈴の耳を、濡らした・・・。
その夜は、鈴を挟んで寝た。
「エヘッ、かぁちゃんはやっぱり、あったかいや」
セタエチは、鈴の乳房の間に顔をうずめて抱きついた。
鈴はどうしていいのか分からずに、とまどいながらも、セタエチの背中に腕を回して抱きしめた。
「セタエチ、後でとぅちゃんと、交替だからな」
ふたりに背中を向けて寝ていたカムイは、顔だけを回してそう言った。
翌々日の晴天を待って、鈴は今あるだけの砂金を受け取ると、炭鉱のある幌内を目指して戻って行った。
女郎なんかであるもんか、と自分自身に何度も言い聞かせながら。
「とうちゃん、かぁちゃんもどってくるよね」
「ああ、たぶんな」
沈んだ声を出すふたりは、鈴が深い雪によろめきながら去っていく後ろ姿を、見送っていた。
鈴の姿が見えなくなるとすぐに、カムイは小屋に戻り身支度を整えると、山刀と弓矢を携え、背負い籠には毛皮などを入れて、
「セタエチ、2、3日セタと共に留守番できるな、文左衛門のところへ行っているのもいい」
と告げると、鈴の後を追いかけた。