カムイ
「父が怪我をした。炭鉱(やま)の中に雪がなだれ込んで・・・数人の男たちと・・・父が、抗(あな)に入っている時だった」
「それで?」
「金がいる。兄さんは・・・兄さんは、前に言っていたことがある。お前は私を欲している、と。私がお前に抱かれたら・・・クッ、お前が持っているとかいう砂金を、分けてくれるのか? 私がここへ来たことを、兄は知らない・・・黙って来た」
鈴はキッ、と睨みつけたあと、囲炉裏に視線を移し、燃え盛る火を見つめながら、言った。
カムイは黙ったまま、囲炉裏の火をかき続けている。
セタエチは、カムイの後ろから腰にしがみつくようにして、鈴をのぞき見ていた。
「ハポ、じゃないや、えっとぉえっと・・・かぁちゃんが、ほしいな、でへっ、でへへへ」
「その子は?」
鈴は、セタエチの存在に今気付き、驚いて見た。
「息子だ。お前、この子に学問を教えられるか?」
「ああ、少しぐらいなら・・・だがお前、結婚しているのか?」
驚きはさらに増し、戸惑いの表情を見せた。
「よォし、決まりだ! セタエチ、かぁちゃんが出来たぞ!・・・だからぁ・・・そのぅ・・・」
カムイは火箸を持つ手を止め、顔を赤らめて空に目をさまよわせながら言葉を捜しつつ、そしてセタエチを見た。
「・・・お前、ちょっと外に出ていろ。あったかくしてナ・・・ち、ちょっと待てっ、外は吹雪いているだろうから、厩舎へでも行って遊んでろ」
「でへっ、とぅちゃん、てれてんのかい、いいよ。わぁ〜い、かぁちゃんができたぁ〜。セタ! 外に行こう!」