カムイ
雪がひとしきり降り積もり、気温の低下で堅雪となった頃。
「アチャ、りょうに行こう」
「おまえ、動物を狩ったことがあるのか?」
「チロヌップ(きつね)をかったよ」
セタエチの方から、猟のことを切り出してきた。
セタエチはもしかしたら、この地での暮らし方を己よりもよく知っているのかもしれない、と思う。しかしこの先のことを考えると、和人としての教育が必要なのではないだろうか。
「いや、食糧は十分にある。それよりも今の内に、文字と計算を教えておこう。雪が解けたら、札幌にある学び舎に入れるようにな」
カムイはセタエチに、簡単な学問を施すことにした。和人が遣う言葉を教え、仮名文字や身近な事柄に関する漢字などは、棒きれで囲炉裏の灰の上に何度も書いては消し、和算の簡単な計算も教えた。
しかし、限界も感じている。まだ、母を恋しがる年齢なのだ。
男親の武骨さや厳しさよりも、繊細な優しさを必要としている子に対して、どのように接していけばいいのかが、分からなかった。