カムイ
10月も半ばとなると、雪が降り始める。半月も経てば雪は消えることなく、ドンドン降り積もっていった。
寒さは例年よりも、一段と厳しいものとなりつつあった。
「アチャぁ、さむいよぉ〜。アチャはあったかくない。ハポ(かぁちゃん)はあったかかったのに・・・いつも、だいてねてくれてたんだよ」
「ああ、チニタの肌はあったかかった・・・」
「ハポ・・・」
毎晩、同じ会話が繰り返された。
囲炉裏には、昼も夜も火を絶やさないように、薪を継いでいった。
囲炉裏に吊り下げた鍋からは、絶えず湯気が出ている。それが部屋を巡って温めてはくれる。だが、外から伝わって来る強烈な冷気には、太刀打ちできなかった。
鍋から立つ湯気は煤と相まって、天井一面に、黒い華を咲かせていった。
夜はセタエチを真ん中にして、温かい体温のセタともども、抱きあって寝た。
厩舎に入れていた馬は寒さに耐えきれず、暖房の甲斐もなく次々と倒れて、死んでいった。無論、それらをそのまま埋めてしまうことはできない。自分たちの血となり肉となした。
冬の間は時々猟に出かけていたのだが、今年は、セタエチひとりを残して猟に出るわけにいかない。さらには、まだ連れてはいけないだろう。文左衛門に預けて、行くことにしようか・・・。獣の肉だけではなく、毛皮は貴重な収入源となる。
カムイには砂金がある。しかしそれは、できるだけ使いたくはなかった。故郷の人々が、生きていくために奮闘しているのと同じように、自力で生きていくことに、誇りを抱いていた。