カムイ
「おお、目覚められましたな」
この家の主らしき男が、ふたりの若者を従えて入ってきた。鼻の下と顎には立派な黒い髭を蓄えている。
改まって座り直そうとするのを制しながら、気遣って言った。
「いや、そのままで良いでしょう、楽にしてください。ご気分はいかがですかな。それと、手足の具合はよろしいですか?」
手先を動かし、足をも見た。少し黒ずんでいるが、なんの支障も感じられない。
「ここは、アイヌの人たちの住まいなのですね。それに和人の言葉をご存じで」
「私たちはシサム(和人)とも赤人(ロシア人)とも交易をしておりましてな、言葉は解しております。凍傷にならずに済んだようですな、ゆっくりと温めたのが良かったのでしょう」
も一度手足をじっくりと見まわし、動かした。
彼らは、囲炉裏端の毛皮の敷物の上に座り、鍋の中の食べ物を椀に掬い入れて食べだした。
「たくさん召し上がられましたか」
「はい、頂戴いたしました。命を助けていただき、お礼の申しようもございません」
「お見受けしたところあなたは、武士、という類のお方ですね。箱館からここまで来られたのだと思いますが、冬のさ中におひとりで、なぜ?」
「・・・・・・」
「ここは、我らの冬の住まいです。山の斜面を掘って作った、穴ぐら、とでも言ったほうがよいでしょうか。シカ猟から戻る途中、木の根元に埋まっておられたあなたを見つけましてな。熊かと思い、危うく仕留めるところでした」
「かたじけない」と、頭を下げた。
「息を感じることができず、からだも冷たくなっておりましたので、もう魂が抜けてしまっているのではないか、と思ったのですが、そのままにしておくわけにもいかない。オオカミに食べられますでな。それで、こ奴らと交替しながら、担いで戻ってきました」
男たちに向かって、深々と頭を下げ続けた。