カムイ
部屋の真ん中の、地面に切り取られている囲炉裏には、天井から下げられた自在鉤に大きな鍋が掛けられ、火が燃え盛っていた。
女が鍋の蓋を取ると、一気に湯気がたちのぼった。
鍋の中をしばらくの間ゆっくりとかきまぜ、木の椀に注ぎ入れて差し出してくれた。
武士の気概で、失態を見せるわけにはいかない、と思う。
動くのもままならないほどに力を無くしていたが、ようようの体(てい)で手を付いて、無理に起き上がろうとした。
女はそんな様子に気付いて椀を置くと、そばに来て手助けをした。
身には何も着けていない己に、女は上掛けの熊皮を背中から前に巻きつけてくれて、さらに女の手を借りて、上体をぐらつかせながらあぐらをかいた。
震える手で受け取った椀の中には、稗・粟に交じって茸や木の実、鮭、そして何かの肉がたっぷりと入っている。
木しゃもじでかき混ぜて冷ましながら掬い、多くはしゃもじからこぼしつつも、ゆっくりと口に運んだ。
ゆっくりと噛みしめる。
十分に煮込まれていたそれらは軟らかく、幾日も空っぽにしていた腹の中を、じんわりと温めていった。
「拙者の、着衣は?」
やっとひと椀食べ終えひと息つくと、身振りを交えて訴えた。
女は部屋を出て、丸められた着物と袴と外套をとってきた。
受け取ったそれらは水を含んで凍り固まり、両手でおそるおそる広げてみるとパリパリと氷を落とし、泥で汚れ、破れて襤褸になってしまっている。
困り果てた様子を察して、代わりに動物の皮で作った上着とズボン、魚の皮で作った肌着などを差し出してくれた。