カムイ
サケの遡上が始まったのである。
カムイと文左衛門は、群れのゆく手を遮る位置に立つと、両側から棍棒で思いっきりサケを叩きつけて、動かなくなったところをふたりして、川岸にそれを引き上げていく。
遡上するサケは、からだの上面を水中から出しているほどに折り重なって、泳いでいるのだ。ふたりを倒さんばかりの勢いで突き当ると、脇にすり抜けていく。
両足を踏ん張って腰を低くし、サケの流れに逆らって水の中を移動する。そして叩きつける。
セタエチも川の浅瀬で、手で捕らえようとしては、大量のサケに足をすくわれて、水の中にひっくり返っている。それでも時々、立ち上がった時には、避けることなく突き進んでくるサケを、胸に抱きとめていたりするのだが、ピチピチと跳ねる大きなサケは、すぐにその腕から逃れて仲間の中にまぎれ込み、その勢いでセタエチは、再び水の中にひっくり返った。
皆は笑いながら、歓声を上げながら、水につかって全身びしょぬれとなりながら、たわむれそして、「そっちのだ、そっち」と言い合いながら、次々と獲物を捕らえる快感に酔いしれていた。
数羽のカラスがおこぼれにあずかろうと、木々のいただきに止まって、また枝の間を移動しながら、それらの様子を見つめていた。
クアァ〜、クアァ〜!
「よーし、これぐらいでいいだろう」
太陽はいつの間にか、中天を大きく回っている。
ひと冬を越せるだけの十分なサケを捕らえると、あらかじめ近くに置いていた大八車に積み上げて、カムイは時々思い出したかのように、「ワハハハ」と笑いながら、前を引っ張って行く。
後ろを文左衛門が、「ソォ〜レィ」という掛け声を出して、時々独りごとを交えながら押している。
セタエチはスキップをするように時々跳ねたりして、セタと共にその周囲を走り回っている。
サケは、時には主食となるほどによく食べられている、ご馳走なのだ。
喜色満面、それぞれがそれぞれに、好き勝手なことを口々に発しては奇声を上げながら、小屋に引き返して行った。