カムイ
でへっ、かぁちゃんが、ほしいナ
「アチャァー(とうちゃ〜ん)、きたよぉ!」
と、小屋の戸をバタン! と勢いよく開けて、息せききって駆け入ったセタエチは、肩を上下させて顔を赤くほてらし、満面の笑みを浮かべていた。
セタは巻尾を小刻みに揺らして、小屋の中に入って、ワワンと吠えては外に出たりと、忙しく駆けまわっている。
「そうか! 文左にも知らせなくてはな!」
粉を挽いていた手を止めてそう言いながら急いで立ち上がり、鍋と棒を取って外に出ると、鍋の底を力強くたたき始めた。
ガンガンガン、ガンガンガン、…………、
大きな音を耳にするとすぐに、それまでしていた作業を止めて、太い棍棒を持って小屋を出てきた文左衛門は、一目散に走って来ると、勢いこんで言う。
「いよいよ来たか!」
「ああ、さあ行こう!」
3人は川に向かって、それぞれの速さで駆け出した。
先頭を、セタが軽やかな足取りで走っていたが、振り向いてカムイのところまで戻ってくると鼻腔を近寄せて、まるで先導者かのように再び前を走り出す。
セタエチは最後尾で腕を回すようにして、みるみる離れていく大人たちを、息を切らし、「まってぇ〜」と叫びながら追いかける。
真っ先に到着したセタは川に入ると、浅瀬をじゃぶじゃぶと走り回り、前足で押さえつけて鼻先を寄せくわえようとしている。だが、大きすぎ、よく跳ねることもあって出来ない。それらに向かって吠えまくっては右往左往して、遅れて到着したカムイのそばに寄って行くと、催促しているかのように吠えた。
バゥン!