カムイ
小屋を入るとそこは、狩猟や採集で得た物を加工する作業場となっており、その奥が、山の斜面を掘って内部に木を張り巡らし、補強した住まいとなっている。
部屋の真ん中に切り取られた炉。そこには懐かしい匂いが、残っていた。
部屋は綺麗に片づけられており、貴重なはずの弓矢と山刀が、ひとり分残されていただけである。己がここに来ることを、予測していたかのように。
そして山刀の下には、アイヌの村を離れるずっと前に、チニタが己の為に作ってくれたエムシアツ(刀帯)が、たたまれて置いてあった。
それはアイヌの風習で、女が愛する男の為に精魂込めて刺繍を施し、愛のしるしとして贈るものである。
カムイはそれを手に取るとしばらく見つめた後、しっかりと腰に巻きつけて山刀を差し、矢は背に負い弓を肩掛けにすると、も一度ぐるりと部屋を見渡してから外に出た。
馬の背に跨ってからは二度と振り返ることもなく、その住まいを後にした。