カムイ
文左衛門はむしろの上にあぐらをかいて、矢を作るために、真剣な表情をして、細く裂いた木に小刀を当てて削っていた。
「お前さんに倣って、この冬は、自分で作った弓矢で猟をしようと思ってな」
と言って、すでに出来上がった弓を手にすると、嬉しそうに掲げて見せた。
冬の間、カムイは時々猟に出かけた。
本格的な冬が訪れる前には、ひと月ばかりを要して、日高の山中に熊の足跡を追いかけた。また、文左衛門を誘ってシカ猟にも出向き、牡鹿を1頭仕留めていた。
鹿を追い詰めるための知的な駆け引きと体力勝負とは、獣を狩るという行為の醍醐味でもある。その勝負に勝ち、狩った獣を手中にした時の陶酔感。そして何よりも、手に入れたその立派な角を見て、文左衛門もシカ猟の魅力に取り付かれたのである。
そうして、自分に扱いやすい弓と矢を、見よう見まねで作り始めた。
「頼みがあるんだが」
文左衛門が作った弓を手に取り、空に突き出して弦を指ではじき、何度か試しをした後、それを文左衛門の脇に返しながら、言った。
「あの子は、お前さんの子供か?」
チラ、と横に返された弓を見、目を手元に戻すと、木を削る作業を続けたまま、問いかけた。
カムイは、その作業を見ながら言った。
「ああ、息子だ。セタエチ、という名でな。私はアイヌの村にいた。命を助けられて、そのまま居付いていたんだが・・・村でなにかがあったらしい。妻が、死んだ、という。確かめて来たい」
驚いた文左衛門は、手を止めカムイを見た。
「セタエチは、どうしてる?」
「疲れて眠っている」
「いくつだ」
「7歳になる」
「なら、何があったのか話は出来るだろう。それを聞いてからでも遅くはあるまい。危険を冒して、はるばるやって来たんだ。そばにいてやれ。明朝、馬でたてばよいではないか」