カムイ
ひと月ばかり留守にしている間に、畑には再び、雑草が伸びていた。蝗に根こそぎやられたと思っていたのだが、大地の生命力は、驚嘆に値する。
小屋周辺は文左衛門が手を入れて、こざっぱりとしていた。
畑を埋め尽くしていた蝗の死骸は、集めて燃やしたのだ、ということを後で聞かされた。
ブルッブルッヒヒーンブルルル……、
馬のいななきを耳にして、カムイの小屋から文左衛門が走り出てくると、はずんだ声で言った。
「馬を手に入れたのか!」
「薬も買ってきた」
「・・・勘蔵は、死んだよ」
一瞬で沈んだ声になる。
「・・・・・・」
黙ったままカムイは馬から降り、背負い籠を下ろした。
近くの木に3頭の馬をつなぐと、雨桶に入った水を柄杓ですくって、1頭ずつに水を与えてから、自身も最後に口にした。
「傷が悪化して、どうしようもなかった。足を切ってしまえばよかったのかもしれんが、勘蔵は、どうしても嫌だと言って、受け入れなかったんだ」
「息子なのか?」
「ああ、意気地無しのな」
「これから、どうする?」
「ここで、住まわしてはくれぬか。いや、起居はあちらの小屋でする。ワシは、お前さんに興味を持ってな。人を惹きつけるなにかを、お前さんは持っている。それが何なのかを、知りたいのだ・・・ところで、あそこにいるお人は?」
馬に跨ったままの鈴が、小さな岩山の出っぱりの陰に身を隠すようにして、こちらをうかがっていた。
カムイと視線が合うと、鋭いまなざしで突き刺すように見ていたかと思うと顔をそむけ、そのまま馬の向きを変えると、走り去った。
しばらく見送るカムイの胸に去来したのは、加代の面影である。どことなく、鈴は加代に似たところを持っていた。