カムイ
暴風雪によって座礁し、沈みゆく開陽丸から命懸けで陸揚げした幕府の軍用金は、山の中を流れる川底に隠している。それに関わった同志とは、吹雪の中で離ればなれとなったが、彼らは凍死したのだと、加代から聞かされて知った。
今では、砂金の隠し場所を知るのは、カムイただひとりである。
カムイはそこに立ち寄って、巾着に入るだけの砂金を懐にすると再び札幌の町に行き、蕪を主体に野菜の種と、その頃寒さに強いとして導入され始めた、ゴショイモ(馬鈴薯)を手に入れた。
残念ながら、蝗害(こうがい)の対処法はない。根菜を多く育てることにしたのだ。
それと、勘蔵の為に薬を買った。西洋の高価な薬である。
「馬を、手に入れたい」
馬車屋が目に付き、そこで尋ねてみた。
「江別に行けば、村下という御仁がいる。ひょっとしたら、そこで譲り受けられるんじゃないかな。函館まで行けば、馬屋があるんだが」
“箱館” は “函館” と表示が変わっていた。
「そうか」
「函館まで行くのか」
「いや」
「江別は、駄目かもしれないぜ。そこじゃぁ、売りもんにしてるわけじゃねぇからな」