カムイ
カムイが町はずれまで来ると、待ち伏せしていたらしい男たちに取り囲まれた。
町にはアブレ者が多く屯している。希望を抱いて北海道に渡ってきた開拓者の落ちこぼれや、一獲千金を夢見てやってきた者たちの、なれの果てである。
「オイッ、懐の砂金、どこで手に入れた!?」
「言わねェと、痛い目に会うぜ!」
一斉に鞘から刀を抜いた。先ほどの店の店員の顔が見える。
カムイは背負っていた籠をゆっくりと地に置き、腰に差していた木刀の柄に手をかけ引き抜くと、正眼に構え左足を少し斜め後ろに引き、剣先をわずかに下げた。
カムイの持つ木刀は自分で作ったもので、一般の物より太くて、その分重い。
その構え方を見た初老の男が、刀を持つ左手をだらりと下げ、右掌をつき出したままカムイの前に進み出て、正面から視線を当てて言った。
「オメェ、新撰組の者か?」
「違う」
「その構えは天然理心流。お前ら、引いてろィ! 近藤勇が指導した剣術は激しい。オレは一度手合わせしたことがある。相打ち覚悟で打って来ゃあがる。捨て身ほど怖いもんはないやな」
「近藤、など知らん」
「フン、土方、か。五稜郭の落人か?」
「親分、噂の十万両。開陽丸から積み出したとかいう。こ奴の持つ砂金が、そうじゃァないでやしょか」
「知らんな」
「オメェ、東北訛りがあるな。亘理(わたり)藩かそれとも会津か?」
「そこを開けてくれ、帰る」
カムイは木刀を腰に戻し、籠を担ぎあげた。
カムイの放つ気、に委縮した男たちは手に刀を下げたまま左右に開き、カムイを睨みつけたまま黙って通した。
去って行くカムイの背中に向かって、初老の男が言い放った。
「この土地で葉物を育てようと思っても、並大抵のことではできねェぜ、ヘンッ」
担ぐ籠の中には、鋤・鍬・鋸などに加え、いろいろな種類の野菜の種が入っていた。