カムイ
札幌の町は、しばらく見ないうちに大きく変貌している。
碁盤目状に道路はつくられ、それに沿って西洋式の、煉瓦でつくられた大きな建物が、次々と建てられていく。
労働者向けの商店が、いくつも開かれていた。真っ先に営業を始めたのは、労働者たちを当て込んだ酒場と遊郭である。
カムイが町に入ったのは、日が西に大きく傾く頃だ。秋が深まり、すでに凍えるような冷気を感じる。
「ちょいとにぃさん、今夜はここに泊まっておいきよ」
年も分からないほどに濃い化粧を施した女が、腕をさすりながら白い息を吐いて、カムイに寄りかかってきた。やんわりと押し返して通り過ぎる。ここそこには、似たような女が客引きをしていた。
遊郭街を通り過ぎて、必要な物資を購入するために農具店に入った。
「おまえ、アイヌか?」
「・・・・・・」
アイヌの衣装を着ているわけではなく、毛皮で作った半纏とズボンである。髪は肩まで伸ばしているが、ひげは剃っている。
「アイヌに売るもんはねぇな。が、金を持ってるのであれば考えてもよいわ」
アイヌは未だに、ほとんどが物々交換である。
カムイは黙って、腰にぶら下げていた巾着の口を開いて見せた。店員は、覗き込んで目を剥いた。
「おめぇ、砂金じゃねぇのか。ヘッヘッ、払うもん払うてもらえるなら売ってやらんでもない」
店員は店主と目配せを交わすと店を出て行き、代わりに店主が両手をこすり合わせながら、愛想の良い態度で応じた。