カムイ
豊平川に沿って歩いていると、着崩した女がふらりと目の前に現れ、しなだれかかってきた。どこか厭世的な雰囲気を漂わせているが、まだ若い女だ。
「お前さん、強いんだねぇ。あいつら、引いてたじゃないか、フフンいい気味だ。ここいらをシマにしててね、いつもでかい面して金をむしり取ってくんだ・・・ねぇ、抱いておくれよぉ。安くしとくからさぁ」
カムイは女を引き離して睨みつけると、横をすり抜けようとした。女はさっとカムイの腕を取る。
「夜鷹じゃ相手に出来ないっ、てかっ」
カムイは女の身のこなしから、武家崩れの臭いを嗅いだ。加代を想って、哀れさが込み上げる。
「故郷はどこだ」
「忘れちまったよ。そんなことよりさぁ、ネえ〜ん、今晩一緒に過ごそうよぉ。あっためておくれよぉ」
「自分を大切にしろ。そこをどいてくれ、帰る」
「フンッ、寒くて鉄砲が撃てないのかい」
「こんな暮らしを続けるつもりなら、ここの砦を強く鍛えておけ。北海道の寒さは半端じゃない。死ぬぞ」
カムイは女の着物の裾をわって手を差し入れ、それだけを言うと、すぐに背中を向けて歩き出した。
バカヤロウ、と叫び、ウッ、ウッとしのび泣く女をうしろに残して――。
周囲の木の陰からは、幾人もの女が息をひそめて見つめていた。