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カムイ

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 笹原の中を幾度となく往復しているうちに、むき出しの腕や胸、顔にはいくつもの切り傷が出来て、血がにじんでいく。
 そのうちに、倒れた笹が道を付けて、その上を木に結わえた縄を引っ張って歩いていると、ウサギが笹の根元に座り、じっとその作業を見つめているのに出くわすようになった。近くまで寄るとさっと隠れ、通り過ぎた後に振り返ると、再び姿を現して興味深げに見ている。
 鳥が、時々思わぬ場所から飛び立っていく。
 鳥と蛇が格闘している場面もある。蛇が鳥のヒナを狙って近づき、親鳥は必死になって撃退しているのだ。蛇は鳥に巻きつこうとし、鳥は足爪で蛇を捉えようと、また嘴でつついて傷を負わせようとしている。

 食うものと食われるもの、自然の摂理である。
 自然と闘うのではない。自然と共に生きるのだ。
 会津に、江戸に、箱館にいた頃には思いもしなかった考え方を、人間の思い上がりを、アイヌと暮らしているうちに教えられた。
 自然そのものすべてが、神、なのである。
作品名:カムイ 作家名:健忘真実