カムイ
荒野に生きる
小高い岩山の上に立ち、見渡す限りに生い茂るクマザサの原野を望見した。初夏の風がそれらの頭をなでていくと、ザワザワと笑いさざめき合っているような音をたてて、揺らいでいる。
雲雀は空高く舞い、時折、つがいを誘(いざな)う符を奏でている。
大きな川が幾重にも曲がりくねり、滔々として横切っていく。
川のほとりには背丈の低い数種類の草が育ち、様々な太さの木が立ちあるいは倒れて、枯れている。それは、川の氾濫の跡を思わせるものだ。
肥沃な土地に違いない。
左手に広がる笹原の向こう、少し離れた所からは、鬱蒼とした木々が立ちはだかる、森となっている。申し分ない自然の恵みを得られることだろう。
アイヌたちは、農作業をあまりしない。少しばかりの粟と稗、ウバユリ、豆類、蕪を栽培するぐらいである。ほとんどは狩猟と漁労、山菜などの採集などで生活を成り立たせている。
アイヌが神から授かり預かっているというアイヌ・モシリ(人間の大地)を、少しの間借り受けて、作物を育てることにしよう。