カムイ
「彦四郎様、加代はどこまでも付いて参ります。江戸にお立ちになられる前に、あなたのものにしてくださいませ」
「源三郎の方が学問も良くでき、人望もある。将来の見込みが高いと思います」
「いえ、わたくしは・・・たとえ粗野といわれていても、あなたの心根に惚れ込んでしまったのです」
そうして初めて肌を重ね合った、あの日のこと。
加代の温もり・・・。
神社の杜を照らしていた月の光は、いつの間にか厚い雲に遮られていた。
想い出は、とめどもなくあふれてきては、走馬灯のようにいつまでも回り続けた。
竹馬の友、井上源三郎。
加代・・・ふたりの運命、どこで掛け違ったのだろうか。
今の、危険を伴うが自然と共にのびのびと自由に生きる生活と、開墾の為に命を削る生活、どちらが良いとは言い難いが、加代と支え合って生きることの意義は大きい。
どんなに辛い暮らしであろうと、加代と共にいられることの方が、幸せなのだ、と思った。