カムイ
目覚めたカムイは、いなくなった月を捜しまわった。
2日後、谷へ下る道を見つけて下りて行った。
その道は多くの獣が通ったのであろうか、踏み跡がえぐられた道を作っていたからである。
周囲は険しい断崖に囲まれ、断崖のところどころには木が突き出して伸びていた。
一面ゴロゴロとした拳大の石が転がり、動物の骨が散乱している。そこは動物の墓場だということに気づき、周りを見渡した。
月を見つけたカムイは、駆け寄った。
月は生きていた。
アバラが浮き出している姿で横たわり、目だけを動かしてカムイを見ている月のそばに、腰を下ろした。
すっかり汚れきってしまった月のたてがみを撫でさすり、体を撫でさすり、頬を撫でさすり、息を引き取るまでそばに付きっきりで、撫でさすっては声をかけた。
「月・・・」
近くには、顔に傷を負った羆の、すでに息絶えた姿を認めた。
そこでは、獣や鳥が死体を食べに来る、という気配がなく、不気味なほどの静寂だけがあった。そこは、生命に満ちた生き物が訪れる場所ではない、ということを知っているかのように。
そこには、襲われていたものも襲っていたものもその区別なく、等しく腐敗していく様子を示していた。
それらの魂を無くした身体は、虫たちが分解して土に戻してしまうのだろう。
追いかけ続けた羆は死に、月の命まで尽きてしまった今、カムイは、すべてが終わってしまった、という虚しさと、言葉では言い尽くせない寂しさを感じていた。
山を下り、平原に出ると、灰色となった頭髪は伸びたままに、顔を覆っている髭もそのままに、あてもなく野宿を繰り返して歩いた。
雪が高く積もると雪洞を掘って、しばらく滞在する拠点とした。
真冬の夜空に、極光(オーロラ)が現れた。
それはほんの数分にすぎなかったのだが、その瞬きは、鈴のコロコロと笑い転げている姿を思い出させるものであった。
そうだ。鈴は、私の人生を支えてくれた、最後まで共にすべき、同志なのだ。
鈴が、無性に恋しくなった。