カムイ
「早く! 極光(きょっこう)だよ」
セタエチの叫ぶ声を聞いて、急いで外に飛び出し夜空を見上げた。
北海道でオーロラが見えることはほとんどないのだが、時々はこうして見えることもある。
オーロラは森の上部に現れ、木を舐めつくす炎のような赤黒い色の帯となって広がっていた。黄色い光の縦筋や、白いいくつもの光の点が入って、帯はゆらゆらと揺らめいている。
その現象は数分間続いた後、突然スーッと消えると、残された濃紺色の空には無数の星が散らばって、瞬いていた。
「なんだかねぇ、父ちゃんが、あしたにでも帰って来そうな気がするよ・・・ほれ、土産だ、なんて言ってね・・・今頃、どこをほっつき歩いてんだろうねぇ」
カムイが作ってくれたウサギの襟巻と、キツネの毛皮の半纏。もう擦り切れてしまっているが、それに身を包んでいる鈴は、手をこすり合わせて白い息を吐きかけながら、セタエチと並んで、幼子を負ぶって夜空を見上げていたヲコロマ、凛たちに、優しく微笑みかけた。
「まぁ、帰って来る所は、ここしかないんだから、ねぇ・・・フフフ」