カムイ
通りすがりの村で、興味をそそられる事柄を耳にした。
羆が山里に頻繁に現れて、人に襲いかかっている、という話だ。その羆は片眼を無くし、顔には刀でできたような傷がある、という。
カムイは足を止めて、その熊がいた、という場所を尋ねた。
「お前さん、その身体で熊を撃とうなんてことを考えてるんじゃぁないだろうね。あいつは、かなり凶暴だ。肢体揃っている者でも、無理だろうぜ。やめときな」
だが、その場所を聞き出した。
「それで、最近そいつに会ったというのは、いつのことだ?」
「2日前だ。もしかしたらもう、北に向かってるかもしれないがな。そっちの方では、餌となる木の実が豊富になってる、ということだから」
カムイは教えられた山に入って行くと、北の方向を目指した。
傾斜が急な所に出ても、月は歩調を崩さないでよく歩いた。
「月、熊の臭いが分かるか? 臭いを捉えたら、教えてくれ」
ブルッブルルッ、と鼻を鳴らす。月とは、かなりの意思疎通が図れるようになっていた。