カムイ
「あんた!」という叫び声を上げて、鈴は馬から飛び降りるとカムイのそばに駆け寄り、手拭いを取り出した。
そして、源三郎を見た。
源三郎は震える腕を上げて、「く、く、く、くま」と藪の方を指し示したままでいる。
「三宅さん、すぐに戻ってください。加代さんがここへやって来ます」
カムイは蒼くなった顔を上げた。
「源三郎、すぐに・・・去れ!・・・加代、ウッ・・・には、彦四郎には会え・・・なかった、と……ヲ、幸せ、に・・・」
源三郎は何度もうなずいて、「スマン、スマンッ」と言いながら刀を拾い上げ鞘に戻すと、馬を引いて走り去った。
「火・・・火を・・・ハァ、ハァ・・・熾して・・くれ」
脇のそばを手拭いで縛っていた鈴は、カムイをそっと横たえ、火を熾しにかかった。
「火で、切り口を、焼いて・・・」
鈴は言われたとおりに、先が赤く熾ってパチパチと爆(は)ぜている木を震える手で持ち上げると、目を背けるようにして、そっと切り口に当てた。
「ウオ――ッもっっ、と・・・強く!」
鈴はカムイの残っている腕を持ち上げて、押し当てた。
「ウワアアアアア――ッ」
目を大きく見開き、体を反り返らせるとカムイは、気を失った。
あたりには肉の焼ける臭い。
鈴は顔に汗を浮かべ、目に涙を溢れさせてもなお、心を鬼にして切り口が固まるまで、木を焚火の中に突っ込み戻しては、赤く瞬いているほどに熾っている木を取り上げて、何度も、何度も押し当てた。
瞼を何度もきつく閉じて嗚咽を押し殺しながら、あるいは顔をそむけながら、何度も・・・。
鈴は獣を警戒して銃を片手に持ち、馬たちも火のそばに連れて来て、火を絶やさないようにした。
カムイの額に浮かぶ汗を拭き取りながら、祈る気持ちで目覚めるのを待ち続けた。