カムイ
「彦四郎だな」
馬から下りると、男は念を押すように言った。
「そうだ」
男の顔から視線をはずさないでうなずく。
男は、「源三郎だ、元気そうじゃないか」と言いながら両手を広げて近づいて来た。
「源三郎、か!」
二十数年ぶりの出会いに、弓を首に掛け戻すと源三郎と手を強く握り合って、目の前にある姿に昔の面影を重ね合わせて、お互いに懐かしんだ。
「私の住まいを捜し出して、来てくれたのか?」
だがなぜ、このような森の中までわざわざ出向いてきたのだろう。家で待っていてくれればいいものを、あるいは、言付けておいてくれれば出かけて行くのに、との疑念が湧いてきた。
「加代さんは、元気か?」
と問いかけると、源三郎は戸惑ったような視線をカムイに投げかけた。
「お主、時々会っていたのではないのか?」
「会ってはおらん・・・ただ、遠くから眺めるだけなら」
「ほんとに、それだけか? 毛皮を届けた時に、加代と会っていたのではないのか? 毛皮のことは前々から気付いていた。だがつい先日、加代に問いただしたのだ。すると、お主の名が出てきたではないか。お主は、函館戦争において死んでいたとばかり思っていた。私はこの数年、私ひとり何も知らずに生きてきたのだ。彦四郎が生きていたことは、嬉しい。だが、私ひとりが馬鹿を見ていた気分だ」
カムイは黙って聞いていた。
「お主が会津を去り江戸に向かって、その後函館で討ち死にしたと耳にしてからも、加代はなかなか信じようとはしなかった・・・藩が会津を去らなければならなくなってようやく、私の想いを受け入れてくれたのだ。しかし加代は、彦四郎、お主のことを今でも、思い続けている」
カムイは思わず、源三郎の顔を見据えた。源三郎もカムイから視線をはずさない。
「加代が、お主の毛皮をもらい受けた時の表情を見れば分かる・・・お主に、この私の気持ちが分かろうはずはない」
「それで?」
「私は、お主を切りに来た。加代の、お主に対する気持ちを完全に断ち切ってしまうために、死んでくれ」