カムイ
文左衛門は、苦戦を強いられていた。
川に出る前に相手に気付かれてしまい、矢を射ることは出来なかった。そして、先に川を渡り終えた4人の男に、取り囲まれてしまったのである。
文左衛門は、4人を相手によく闘った。
型に忠実で美しい隙のない流れ、それでも鋭く切りつける、柔の剣。
双方共に荒い息遣いをしているが、文左衛門はもう60半ばになっている。年には勝てない。
鍔迫り合いともなると押されぎみとなり、それでも押し返した反動で後ろに下がった時に、膝がガクンとなり平衡を崩した。
相手はその隙を見逃さなかった。刀を水平にして、ないでくる。
文左衛門は、刀の柄を上にし、切っ先を下に向けてカキーン、と受け止めたが、それ以上の動きが出来なかった。
後ろから振り下ろされた刀に、肩口から背中に向けて切られてしまった。