カムイ
カムイがそっと近づいて見たものは、酸鼻極まる情景。
黒い煙を上げながら、焼け落ちてもなお、炎を揺らめかせて燃え続けている天幕。血まみれとなって横たわっている人、人、人。
焼けた肉と血の臭い。
3人の男に囲まれて刀を突き付けられている、少女。
遅かったか、すまん、と手を合わせるしぐさをしてから、矢を取り、続けて放っていった。
一本目は、こちらを向いていた、頭らしき男の心臓に。二本目は、驚いて振り向こうとした男の右腕に。三本目は、同じく振り向いた男の額を貫いた。
腕を矢で撃たれた男が、矢を引き抜くと地面にたたきつけて「クソーッ」と、まなじりを釣り上げた怒りの形相で、刀を振りかざして向かって来た。
続けて放った矢は刀ではじかれて、男は勢いを付けて近づいて来る。カムイも腰から刀を抜いて、間合いに入ったところで男が振り下ろした刀を避けて、振り抜いた。
男は刀の峯ではじき返すと、そのまま袈裟掛けで切りつけてくる。
カムイは後ろに跳びのき、左足を地面に付けた瞬間に蹴って跳び上がると、斜め左下から思いっきり右腕を伸ばして、右上に刀を振り上げた。
相打ち覚悟で打ち込んでいく、型にはまらないが、力強い、剛の剣。
森の中では太い根っこに足を取られて、敏捷な動きがしづらい。切っ先が男の腹を切り裂いた。
男は、ウッ、と前につんのめって、倒れた。
カムイは、倒れた盗賊たちには目もくれず、急いで少女のそばまで行くと、指笛を吹き、刀をひと振りして血を払ってから鞘におさめた。
駆け寄って来た月に跳び乗るようにして跨ると、少女の腕を掴んで思いっきり引き寄せて前に乗せ、森のさらに奥に向かって走った。
「月、走れるな」と首筋を軽く叩く。月は、藪の急斜面を、力強く登って行った。
盗賊は実際のところ、何人いるのかが分からない。しばらく走ったところで周囲の気配を探った。追って来る者はいない。
川の方向に下りて行くと、川の中を慎重に渡り、家路をたどった。
少女を家に置いてから、文左衛門に加勢するつもりだ。