カムイ
セタエチは、中等学校下等科に通う15歳(数え年)になっていた。
学校が長期の休みに入ると、馬に乗ってひとりで帰って来る。
今では、オオカミの出現を阻んでいるほどに人の往来は増えていたが、銃を所持することを許され、ここの往来時には、絶えず銃を携帯していた。
鉄道が走るようにはなっていたが、駅ははるかかなたにあり、牧場の息子はやはり、馬を選択する。
春彦は、来春になると家を離れ、札幌の小学校に上がることになっている。
妹の凛は4歳(数え年)。鈴に似て気は強そうだが、愛らしい表情を振りまいて、周囲の人々を和ませている。文左衛門はもうとろけそうな表情になって、毎日凛の相手をしている。
セタは、死期を悟ると森の奥深くに入って行き、二度とその姿を見せることはなかった。
カムイ、セタエチ、鈴、文左衛門、それと春彦。それぞれの手の甲を舐めまわし、軽く咬むようにして別れの挨拶を残して行った。その時には、それが永遠の別れを告げているのだということを、誰も気付いていなかった。
ひっそりとわが身を、自然に帰していったのであろう。