カムイ
二十数人のアイヌ民たちが、突然訪れてきた。赤子を抱いた女性も混じっている。
顔じゅう白い髭におおわれた長老は、イトコイと名乗った。(以下、アイヌ人との会話はアイヌ語)
「久しぶりだな、アッケシの酋長、イトコイ」
「久しぶりだ、カムイ、元気そうで何よりだ」
カムイとイトコイは抱き合って、お互いの背中を軽く叩き合った。
「交易所では、ずいぶんと世話になった」
「なんの、なんの。ところで、私が暮らしていたコタンの、タナイヌたちのことを、何か知らないだろうか」
「分からない。ほとんどのコタンのアイヌは、和人の兵士に連れて行かれ、狭い土地にまとめられて、監視されているということは聞いて知っているが、それがどこなのかは分からない。この蝦夷地に、何カ所かあるそうだからのう」
「そうか・・・ところで、今日は?」
「私たちは、強制収用を逃れるためにコタンを捨て、土地、土地を移動して暮らしてきた。だが、狩猟や魚を獲ることも制限で厳しくなり、土人法というもので、アイヌ民族を絶やそうとしている」
「ああ、そうらしいな」
「政府は、私たちアイヌ人をすべて、和人と同化させようとしているのだ。私たちの伝統を捨てさせ、言葉も和人語を喋らなくてはならない・・・それを拒んでいる私たちの持つ装飾品などを狙って襲って来る、和人らから逃れている。奴らの言い分によると、アイヌは和人ではないから襲ってもかまわない、という」
「なんてやつらだ」
「それで、しばらくの間安心して過ごせる場所を求めて、ここへ来た。カムイ、君のことは同胞たちの間で噂になっていた」
「大変だったな。分かった、好きなだけ居てくれ」
「いや、少しの間で良い。もっと北の方、樺太へ行くつもりでいる。そこにいる同胞に受け入れてもらえよう、と思っている・・・あの川の向こうの森を少し入った場所を、しばらくの間、使わせてもらってもいいだろうか」
「もちろんだとも。この土地は元々、君たち、アイヌのもんだ。神から預かっている土地だから、ずっといてくれてもいい。何か必要なものがあれば、遠慮なく言ってくれ」