カムイ
「アハハハ、ションタク、いやゴホン、フンッ、春彦はワシが見ていよう」
「文左衛門さん、いつもすみませんねぇ、お願いします」
「ワシの出来ることと言えば、これぐらいのことだからな。ただただ世話になるだけというのも、気が引けるもんだわ」
文左衛門はこめかみに人差し指を当て、軽く掻くようにしながら春彦に近づくと、柱から引きずっている紐をはずして抱き上げ、臭いを確かめる。
「うん、健康そのもののいい臭いだ。どれ、おむつを換えような」
と言いながら、小屋に入っていった。
小屋の近くには、文左衛門も一緒に住めるようにと部屋割のある、急傾斜の屋根をした頑丈な家が建設中である。
雄作は、頑固なふたりの為ではなく、可愛い甥のことを思って大工を寄こして来た。雄作に妻子はいない。だからその分、春彦を愛おしく感じていたのだろう。
カムイはションタク(春彦)のこと、そして辛い思いをさせた鈴のことを思って、それだけを、ということで受け入れたのだ。
文左衛門は、軽い農作業を手伝う日々である。
腰や膝の不調を訴え、「年には逆らえんわ」と言いながらも、時々カムイに誘われると、魅力に取りつかれてしまったシカ猟には、いそいそとして出かけて行く。
「ワシにとって、血の繋がった孫のような気がするわ。勘蔵(息子)はこのようにして、抱き上げてやったこともなかったもんだがのぅ」
春彦が発する「じぃじ」という言葉に、でれっとなって、嬉々として相手になっている。
そういった平穏な毎日であった。