カムイ
「落ち着け! セタ」と言いながら月の背から降りて、セタの攻撃を笑いながら受けているカムイは、射止めたキツネを掲げて見せた。
「ほれ、土産だ」
と言うと、セタを押さえつける様にして、ニコニコとして突っ立ったままでいる。
実際のところ、どうしたらいいのか、何を言えばいいのかが分からないのだ。
鈴もしばらく棒立ちになって、息をするのも忘れて目を潤ませ見つめていたが、黙ったままカムイの胸に飛び込んでいった。
何も言わずに、ただただ顔を胸にうずめて・・・額でグリグリと胸を押して・・・頭で胸を叩きつけて・・・それでも両手はしっかりと、カムイの背中を抱きしめて・・・。
言葉などというものは、なにも必要なかった。
自然に湧き出してくる感情を、そのままぶつけるだけでよかった。
キツネはドサッ、と雪の上に落ち、キツネの目は、そんなふたりに向けられていた。
長い時間、キツネは冷たい雪の上に放っておかれた。
セタはキツネの臭いを嗅ぎ取るために、グルグルとその周りをうろついていたが、飽きてくるとその場に伏せ、前足に顎を乗せて、時々片目だけ持ち上げてふたりを見やっては、尻尾を緩やかに振っている。
やがて雪が、静かに、静かに舞い落ちてきた。