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カムイ

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 1匹のキツネを仕留めて、カムイは家にたどり着いた。

 キャンキャイ〜ン、クゥィ〜ンと忙(せわ)しげに、跳び上がるようにして両脚で扉をかいているセタを見て、食事の支度をしていた鈴は不審に思いながら、戸を開けた。
「どうしたんだい、さっき外から戻ったとこだろ」
 外に勢いよく走り出たセタは、ワンゥワンワンゥワン、と喜び狂った声を出して吠えている。
 もしかして! と思い到った鈴は、手にしていたしゃもじを放り投げて、何も羽織らずに朝のまだ冷気立つ中に、大急ぎで飛び出した。
 カムイ!

 セタに吠えられ跳びつかれて、四肢を交互に高く上げながら逃げ惑っている馬。
 その馬の背にまたがっている男は・・・その男の姿を目にしっかりと捉えて、も一度心の中で叫んだ。
 カムイ!

 いつにないセタの激しい吠え声に、何事かと思って刀を手にし、急いで外に飛び出した文左衛門は、遠くからその情景を見てとると頬を緩ませて、目に両掌を当て、鼻を啜りながら、頭を上下にゆるやかに振って自分の小屋に引っ込んだ。
作品名:カムイ 作家名:健忘真実