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カムイ

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 雪が降り積もって広い空間を作り出している斜面に立つ、太い木の肌を裂いている、大きな背中を認めた。
 斜面一面に生えているクマザサに降り積もった雪が、その重みでたわんでいるクマザサからガサッと音を立てて落ちると、羆は口を大きく開けたまま、上半身だけを振り向かせ、鼻をヒクつかせて付近の気配をうかがっている。
 カムイの存在は風上側に位置していたので、幸いにして臭いを捉えられずに済んだようだ。ほっと、胸をなでおろした。
 再び木の肌を裂く為に、立ち上がったままの羆は背中を見せていた。
 
 そっと、矢をつがえながら立ち上がったのだが、空気の動きで察知されたのか、振り向いた羆は、両手を上げて胸をそらすことで体をさらに大きく見せつけ、咆えた。
 その時に心臓の位置を狙って、矢を放つ。
 が、同時に四つん這いとなった羆の、右腕に矢は立った。
 すぐに次の矢をつがえて、頭を狙って放った。しかしそれは羆の左目を突き刺し、グァアオォォォ――ッ、と高く咆えながら、矢を突き刺したまま雪の斜面を、ドササッ、ドササッ、とクマザサから雪を落とす音を加えて、カムイ目がけ、四肢を繰りだし突き進んで来た。
 目から滴り落ちる血が、雪の上に点々と赤い花を咲かせていく。
作品名:カムイ 作家名:健忘真実