カムイ
学校が休みの日にはその都度、セタエチは、銃に腕の立つ男に付き添われて帰って来た。よく知った道ではあっても、オオカミが多く生息している地帯であり、また熊が現れることもある。絶えず、銃を携帯している必要があった。
ひとりで馬を乗りこなせるようにはなっているが、銃を持たせるわけにはいかない。セタをお供に付けておくわけにもいかない。念のために弓矢を携行してはいるが、子供の力ではオオカミを斃すことは無理だ。ウサギを撃てるぐらいのものである。
鈴は、セタエチが帰って来た時に送り届けてきた使用人から、いろいろな情報を知らされる。
カムイが自由になったという、そのいきさつも聞いて知っていた。
「かぁちゃん、とうちゃん帰って来たのか?」
「いや、まだだよ、どこをほっつき歩いてるんだろうね」
「じゃまだ、春彦のことを知らないんだね」
「生まれたことは知ってるはずだけどねぇ、会いたくないんだろうか。きっと、加代さんに会いに行ってるのかもしれないね」
「加代さんて、僕たちよりも大事なのか?」
セタエチはいつの間にか、しっかりとした物言いをするようになっていた。
「加代さんとの付き合いは、子供の頃からのもので、長い期間続いていただろう。そういった想い出は、簡単に消せるもんじゃぁない、と思うよ。父ちゃんは、そういった思いを大切にする人なんだよ」
そっと溜息をついて、眠っている春彦に視線を当てた後、囲炉裏に掛けている鍋に鮭の身を放り込みながら、自分を元気づけるかのように続けた。
「ま、無事でいてさえくれれば、それでいいよ。帰って来る所は、ここしかないんだからさ」
だが、思う。
早く帰って来て欲しい。
が、帰って来た時に、どのような言葉をかければよいのだろうか。どのような表情をして、迎えられる?
カムイは、なんと言うだろうか。
カムイを密告したのは、私なのだ・・・。