カムイ
居場所は・・・、
狩りをしながら、余市を目指していた。
急ぐ必要はないが、山ではすでに冬の気配が訪れている。
加代に会うつもりはない。ただ、暮らしぶりを知っておきたかった。出来れば遠くからでも、ひと目見たい。
雄作の言葉が頭の中で反復し、響いてくる。
もしかしたら、その言葉を掛けられたことによって、意地を張っているにすぎないのかもしれない、と思う。
目の前には、紅葉を残している冠雪の蝦夷富士が、碧く澄み渡っている空の一部を切り取り、居据わっている。
すっかりなじみとなったそのなだらかで美しい稜線と、大きくどっしりと構えている姿を眺めているうちに、鳥のさえずりや虫の恋歌を聞いているうちに、それらが秘めている命の躍動に心が感応して、生きる気力が沸々と再び、わき起こってきていることを感じる。
これから・・・どうするか。
それはまだ、考えていない。しばらく猟を続けながら、山で暮らすのもいいだろう、と思い描いてもいた。
ただ、砂金のある方向へ行くのだけは避けた。誰が後を付けて来ているか、分からない。もう、私の物では、ないのだ。
長い拘束された生活の間に足が弱っているのか、走る力が続かない。ウサギを何度か追いかけたが、いつもすぐに見失ってしまった。仕方なく、魚を獲り、山菜・きのこで腹を満たして、歩き続けた。
少なくとも3匹のウサギを捕らえたい。それを毛皮にして、加代の住まいに置いて来るつもりだ。
アイヌとの生活で得た知識で狩猟をしながら生きていくのが、私にはあっているのではないだろうか、との思いに傾きつつあった。
今カムイは、自由な時間を心ゆくまで堪能するつもりでいた。