カムイ
続いて出ていこうとするカムイに、「待て、君のおかげで助かった。礼を言う」と言葉をかけた。
そして台帳を引き寄せて、ページを繰っていった。最後のページまで繰ると、数ページをめくり直してから言った。
「カムイ・・・飯田、彦四郎・・・この名前も、消しておこう。抗争のどさくさに銃で撃たれて、死んでしまった」
筆に墨を含ませて、台帳にある [飯田彦四郎] という名前の上に、線をゆっくりと引いた。
「そこの弓矢は持って行くがよい。鈴が、乳母の鶴を通じて届けてきていた物だ。まったく・・・必要になる時が来るだろうから、という言伝でな」
弓矢を再び取り上げると、点検でもするかのように弓の全体にゆっくりと視線を走らせてから、机に近づいて弓矢を脇にそっと置き、筆を取り上げた。
机の上に乗っていた紙を引き寄せて、使っても良いか、と目で問い掛けた後、考え考えなにやら書き付けていくと、雄作に手渡した。
雄作は眉間にしわを寄せ、怪訝な表情をして受け取るとそれに視線を落とし、顎に片手を当ててじっと見やっている。
「砂金のある、場所を示す地図だ。死人に、金は必要ない」
それだけを言い残して弓矢を手にすると、カムイはさっさと戸口に向かった。
ドアノブに手を掛けたところで、背中に、雄作の言葉を受け止めた。
「余市へ行くのか? その女、鈴に似ているそうだな」
一瞬背中をこわばらせたが、振り返ることなく戸を押し開いて、部屋を出て行った。