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カムイ

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 彼らは、1町(109メートル)ほどの距離をとって立ち止まり、「社長を出せ!」「社長に会わせろ!」と口々に叫んでいる。
「私が村下だ! 幌内炭鉱の経営をしている。君たちの代表者はどこにいる、前に出ろ!」
 雄作は、手には何も持たず仁王立ちとなって、聞こえるように腹の底から声をゆっくりと絞り出し、群衆を睥睨した。
 群衆は、武器を持たないその果敢な姿に、気後れした。畏れを感じた者が、投石に及んだ。
 だがそれは、かろうじて届かない。雄作は、石を飛ばしてきた者の方を睨みつけ、声を張り上げた。
 
 大声での応酬が始まった。
「君たちの要望を聞こうじゃないか! だが、力で押してくるのであれば、話は聞けんな」
「今さら話し合いかよ。ただ俺たちは、自由が欲しいのよ」
「そうだそうだ、賃金をもっと上げろ」
「自由な時間をもっとくれ」
「監視の目を緩めろ! 俺たちは、奴隷じゃない! 囚人じゃないんだぞ」
「いや、囚人も混じっているんだが、このままじゃぁ、みんな倒れてしまう!」
「分かった! 君たちの代表者と話し合って、環境を改善していこう。今日はこのまま、引き取ってくれ!」

「うるさい!」という喚き声と共に、再び石が飛んできた。それを皮切りに、群衆が押し寄せてくる。
 雄作は銃をすぐさま受け取ると、空に向けて発砲した。一瞬怯んだ群衆は、それでも興奮している為に、感情を押しとどめることはできない状態にある。
 頭を目がけて飛んできた石を、腕をかざして受け止めた。腕にしびれが走る。
 次々に投げられて来る石は、顔をかすめて飛んでいった物もある。あるいは腕で避けた。
 石の攻撃の中、腕を頭にかざしている部下に引きずられるようにして、雄作は建物の中に入った。
 
 建物の横手で様子を窺っていたカムイも、雄作にうなずくようにして共に中に入った。
作品名:カムイ 作家名:健忘真実