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カムイ

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 刀を提げて労働者の見張りをしている小頭に、ひとりの男が話しかけた。
「頭ぁ、これなんでしょうね」
 差し出されてきた石を手に持ってしげしげと眺めながら、
「石炭じゃァないか、別に変ったもんじゃな」
と言いかけたところで、後ろにこっそり回っていた別の男がいきなり、小頭の後頭部をツルハシで殴りつけた。
 さらに別の男が、小頭が持っていた刀を取り上げると、彼の下帯をはずして、体を支柱に縛り付けた。

 おぼろげに坑道を照らし出しているカンテラを取り外して、それを持った男が最後尾に就く。先頭を、昼飯を届けに来た男が足元を照らしながら進んだ。
 坑道を地上まで遡った。
 そこここではすでに事は済んでおり、何人かの男がやはり下帯でぐるぐる巻きにされて、支柱にくくりつけられていた。
 そいつたちを横目に睨みながら、登って行った。ある者は、ケッ、とか言い、ペッ、と唾を吐きかける者もいた。

 地上に出ると、日差しがまぶしく目を突いてきた。クラクラと眩暈を起こす者もいる。
 工夫たちは、各々がツルハシや棒きれを探し持ち、それを手に入れられなかった者は炭車を押した。その周囲には多くの者が群れ、すでに開かれている柵をくぐって、事務棟を目指して行進していった。

 カムイはそれらの中にあって、気炎を吐くことに夢中になっている群衆からそっと離れると、植え込みの間に身を隠しながら、すでに見知っている事務棟へと向かった。
 やっと、意を決することが出来たのである。
 鈴の身内の者を、見捨てることはできない。
作品名:カムイ 作家名:健忘真実