カムイ
カムイは、「私だけがいい目をみるわけにはいかない」と言って、監獄部屋に戻って行ってしまった。
「フーッ、頑固者どもめが、どっちもどっちだ・・・フン! 似た者夫婦、とはよく言ったものだな」
カムイは、囚人としての扱いに耐えた。ここにいる囚人のいったい何人が、ほんとの意味での罪を犯して、それを問われているのだろうか、と疑問に思っていた。そういった、ある意味同志としての絆を感じていたのだ。
夏となっても、カムイは鉄道建設現場に戻されることはなかった。
集治監からの囚人返却の命令に対して、雄作は人員不足を理由に、その一部の囚人は戻さなかったからである。
一方、採炭夫たちを中心とした土工夫の間では、会社に対する不満が頂点に達していた。
納屋頭を倒して、会社の事務棟を襲う計画が、監獄部屋の労働者にも密かに回ってきていた。昼飯のお握りの中に、その計画書が隠されていたのだ。
囚人の男がお握りをかじった時に、変な物が混じっていたので吐き出そうとしたが、それを運んで来た者が目で合図を送って来た。
出すな! と。
なんだろうか、と不審に思い、その男は口の中でまさぐって紙であることを知ると、皆からその小さな紙片を隠すようにして、そっと口から取り出して褌の中に隠したのだ。
[明日昼飯が届けられた時にその者と共に各々獲物を探し持って坑を抜け出す]
という内容が、その小さな油紙に細かい文字で、びっしりと書かれていた。
それを知らされたカムイは少し迷ったが、密告はしなかった。