カムイ
「つまらんことで、大変な思いをしてきたようだな。事情は、ある程度聞いて知っている。だが集治監に入ってしまうと、私の力ではどうにもならん。そして、私の力でここからも出してやることはできん。君たちはまだ、集治監の監視下にあるんでな。だがカムイ、君には地上での仕事をしてもらおうと思っている」
カムイはやはり黙ったまま、外に視線を向けていた。
雄作は、たばこを指で挟んだまま組んだ足に片肘を乗せ、カムイを凝視して、言った。
「私に、甥が出来てね・・・その甥の父親というのは・・・フフンッ、カムイ、君だ」
カムイは、視線を雄作に移した。たばこからは白い煙が、細い筋となってゆらめき立っている。
「鈴は・・・鈴はこちらに、戻っているのか?」
「頑固な奴だ。援助も断わってきよった。ひとりで君との家と牧場を守る、と言ってな・・・だが、私と血が繋がっている甥の父親に、強制労働をさせておくわけにも、いかんだろう?・・・ハッハッハッ、君と兄弟になるとはな、けっさくだ。迷惑千万なことではあるが」
「そうか、鈴に子が出来たのか」とカムイは他人事のように、小さくつぶやいた。