カムイ
「思ったより、元気そうだな」
雄作は、椅子に座り葉巻をくわえたまま、伸びをするように上げた両手を頭の後ろで組んで、ニヤッ、と片方の口端を上げて言った。
カムイたち囚人が幌内炭鉱に移動させられ、役回りを決められて本格的に坑内に入るようになってから、数カ月後のことである。
ツルハシを振るって炭を掘り起こす者のことを、先山、という。カムイは連日地の底に下りて、それに従事していた。
掘り起こした炭はスラ函という箱に入れて、コロと呼ばれている、敷設された梯形の木の上を押して転がしていく。その運搬する者を後山、と呼び、傾斜20度での運搬は、一歩踏み外せば大事故となる。
地域によっては、男に混じって女が、それに従事することもあった。
スラ函で運んだ炭は、大きな炭函に移しかえて外に運び出される。
その時だけが、異なる部屋の住人と出会うことになる。
そんな時に、部屋の頭領に連れられて外に出ると、事務方の男に案内されてここへ来たのだ。カムイは、炭で汚れた身体にシャツを引っ掛けただけの姿である。
坑内は冬でも熱を帯びて暑く、裸で作業をする。夏は、地の底での気温は外気温よりも低いが、作業をしていると熱気がこもり、息が苦しくなるほどになる。
大きな机の前に直立したままのカムイは、いろいろな思いを交錯させて、雄作の後ろにある大きな窓から広がる情景に、目をやっていた。
昼間の外の景色を眺めること、この明るさの中にいることでさえ、久方ぶりのものである。
若草色をした若々しい葉が、時折きらりと反射してくる陽光がまぶしくて、目を細めて見つめていた。
外の世界では今、新しい命が満ちてきていることを知った。