カムイ
幌内炭鉱
昨年、炭鉱内で事件があり、社長が襲われ負傷してから、息子で専務の雄作が社長に就いていた。
賃金のピン撥ねなどに不満を膨らませていた採炭夫たちが、視察に入坑して来た前社長に直訴した。しかし、社長を守って周囲を取り囲んだ社員に撥ねつけられたことから興奮が増し、その勢いでひとりがツルハシを振りかざして襲いかかると、乱闘となった。
社長がかぶっていたヘルメットが吹っ飛んで頭を支柱に打ち付けた上に、足を骨折した。同時に、坑道の支柱の一部が破損し、崩れた土砂によって数人の社員と採炭夫が負傷している。
いっときその坑道が使えなくなり、炭鉱の経営にも波及して苦しい状況にあった。
雄作が社長に就いてから、納屋頭や小頭が土工夫たちの日常を監視するという身分的拘束の下に、半強制的な労働に従事させている、納屋制度を見直すことを約束していた。
しかし、既得権を主張する頭らの抵抗に合い、実際には金銭面でわずかの変化がみられたのみで、制度自体は現状維持のまま、変革は一向に進めることが出来なかった。
不満は、個々人の内部でくすぶり続けていた。