カムイ
「フフン、生きていてくれて安心したよ、カムイ。脱獄に加わっていたんじゃないかと、思ってね」
カムイは、集治監の監長の部屋に連れて来られて、札幌警察から事件を聞いて駆け付けた警視と、対面していた。
「容貌が、すっかり変わってしまったじゃないか。どうかね、いい加減観念して、喋ってしまう気にならんかね。そうすりゃ、直に釈放となるんだがねぇ・・・それだけでなく、君に仕事も考えている」
カムイは黙ったまま、こけた頬の顔で目だけをぎらつかせて、警視の顔を直視していた。警視の顔には、焦りの色が見られる。
獄舎には噂が立っていた。どうやら本当らしいな、と直感した。
冬になると、鉄道建設の作業はできなくなる。効率が非常に悪くなるからだ。よって囚人たちは、石炭掘りの仕事をするためにどこかの炭鉱に送られる、というものだ。
炭鉱に入った囚人は、死、が待っているだけだ、と。
そこから抜け出た者はひとりとしていず、しかも二度と太陽を拝むことはできないのだ、と。
日本の軍事力増強、国力向上の為に、石炭の需要はますます高まっていた。
炭鉱に連行された囚人は、最も危険度の高い地の底で、働かせられるのである。
陽の上がるずっと前から、陽の入った、ずっと後まで。