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カムイ

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 いよいよ、その日。
 すでに雪がうっすらと地面を覆い、水桶には薄い氷が張っている。
 日が高く昇り、凍りついていた地面が少しだけ緩んだ時に、彼らは決行した。
 
 切り倒された木を運ぶ者たちが、数人いる監督官目がけて、その担いでいた木と、近くに置いていた木を次々に転がした。
 斧を振るっていた者たちは、足枷に付いた鉄の玉のつなぎ目を、お互いに切り離しにかかった。毎日少しずつ、監督官の目を盗んでは切り込みを深めていっていたのである。
 脱獄に加わっている者たちの鉄の玉が、切り離されていった。
 監督官たちは、大きな丸太が突然転がって来たことに慌てふためき、右往左往して避けようとしたが、その数の多さと、転がって来る勢いに足が止まり、ついには絶叫を残し、下敷きとなって息絶えた。

 鉄の玉を切り離した男たちは、さらに山の奥深くを目指して、かたまって入って行った。
 絶叫を聞きつけた、別の場所を担当していた監督官が駆けつけた時には、脱獄囚たちはすでに逃げ散っていた。残った囚人たちが力を合わせて丸太を動かし、下敷きとなっている監督官を引き出そうとしている。しかし、丸太の数は多く、重なり合ったりもしているので、1本の木を動かすと、その上部で止まっていた木が転がり出す。
 誰かの指示がとんで、上に位置する木から順に取り除いていった。
 
 駆けつけた監督官のひとりが空に向かって発砲し、作業現場すべての者に異常事態発生が知らされた。
 刑務官たちは、すぐに山を取り囲む手配をするために付近の村落を走り回り、馬に乗れる者は、集められた地元民を引き連れて、山狩りに向かった。
 一方、犬を山に放っての、一斉捜索にも取りかかった。
 脱獄に関わらなかった囚人たちは、救助に当たっている者を除いて一箇所に集められて、点呼が取られ、その日の作業は中止となり、物々しい警戒のもと、獄舎に戻された。
作品名:カムイ 作家名:健忘真実