カムイ
日に日に、寒さが増していった。
一日の仕事を終えると、班ごとに一列に並んで点呼し、食堂へと向かう。粟飯山盛一膳と漬物少々、具の見当たらない薄いみそ汁がついただけの食事を終えると、再び一列縦隊となって部屋に戻る。
どこへ行くにも、列を作って移動するのだ。何かが生じると、班ごとの連帯責任として全員が同じ扱いを、あるいは同じ罰を受ける。
鉄格子が入った部屋には、10人が起居していた。ひとり一畳。大柄なカムイにとっては窮屈ではあるが、あてがわれた薄い毛布を引っ被って寝るだけの場所である。
寒さで、お互い身をこすり合わせるようにして寝ていたが、それでもどうにもならないほどの寒さが、時々やって来るようになった。
中には膝を抱え込んで、歯をガチガチと鳴らすほどに震え続け、夜が明けると、すでに冷たくなっていた、ということもある。栄養が足りないために、少しの寒さでもやり過ごすことが出来ない者がいるのだ。
地面が掘れる時期はよかったが、凍りついてくると掘り返すこともできなくなった。囚人に棺は与えられない。そのままの姿で地面に横たえ、木屑を、あるいは枯れ葉をかぶせるだけで済ませられる。
家族が近くに住んでおれば連絡がその元へいき、亡骸はしぶしぶながら引き取られていったが、たいていの者は遠く離れた地、本州から誰にも言わずに来て、運悪く投獄された者たちである。
すでに本州で囚人となってここに送られてきた者たちであっても、遺体を引き取る為に、家族がわざわざ迎えに来ることはなかった。
同じ部屋にいた者だけで、形だけの弔いを行った。
囚人の、家畜以下の取り扱いを巡って、不満がたまっていった。
このままでは飢えと寒さで、近いうちに死んでしまうだろうからと、脱獄を計画する者たちがいた。脱獄して、たとえ見つかって殺されたとしても、万が一つの可能性に掛けてみよう、という連中だ。
同じ獄中の者たちの計画にカムイは加わることはせず、密告するということもしなかった。
カムイには、自ら動いて何かをする、という気力が失せていたこともある。自由になって、どうするかという考えは全く浮かんでこなかった。
その計画は、他の部屋の者たちにもひっそりと伝わっていき、連帯責任を取らされると分かっていながら誰も密告をしなかったのは、ただその行く末を、見届けたかったからであろうか。