カムイ
うつむいて慎重に足を運んでいるその男は、言葉の間に大きな呼吸をはさみながら、やっと聞こえるような声で、話しかけてきた。カムイも呼吸を挟みながら応じた。
「にぃさんは・・・何をしてここに・・・送られて来たんで?」
「さぁ、私にも・・・よく分からない・・・強いていうなら、捕り物にやって来た・・・巡査に打ちかかった、ってとこだな」
「なぜに・・・捕り方が、来なすったんで?」
「調べたきことがあって・・・なぜ、なんだろう、な・・・とっつぁんは、何をして」
「人ひとり、殺めましてね・・・惚れて・・・惚れ抜いたぁ・・・女でしたん、で・・・ああ、江戸でね・・・版木彫りなんぞ・・・しとりました・・・フーッ、いい女でした、ねぇ・・・未練たらしくね・・・そいつを・・・追っかけて・・・こっちに、来ゃしたんで・・・男ってもんは、全く・・・情けないもん、で」
男はそこで口をつぐんでしまった。何かの想いに浸ってしまったらしく、それっきり黙ったまま、腰に手を当ててゆっくりと歩いていた。
カムイは、赤子を背負って現れた時の、驚いた表情を見せていた加代の姿を思い浮かべた。
続いて、笑っている鈴が現れた。ウサギの皮をなめして雪靴を作っている時、そばに寄って来て手元を覗き込んでいる鈴は、とまどいの表情を浮かべてはいたが、次第に顔をほころばせ嬉しさを忍ばせた、不思議な笑顔に変わっていった。
作業をしながら、ちらりと目を走らせて見たその表情には、ゆったりとした気持ちにさせられ、鈴を幸せにしてやりたい、と思わせるものがあった。
歩きながら思う。惚れて、惚れ抜いた女・・・たち?