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笑うのっぺらぼう

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 ――目を開けると教室にいた。
 今は、授業中だ。どうやら私は居眠りをしてしまっていたらしい。はてさて、どの辺りで意識が途切れてしまったのか。
 窓の外は明るく、カーテンは全開。薄暗い教室の中に光が差し込んでいて、なんだか妙な雰囲気だ。
 先生はこちらに背を向けて、コツコツと黒板に数式を並べている。今日も頭頂部のつるんとした肌色が眩い。
 いつもは少し騒がしさがあるのに、今日は嫌に静かだ。いつもこそこそと私語を行うクラスメイト達も静かで、それどころかグラウンド、そしてその向こうの幹線道路からも物音が聞こえてこない。完全な静寂の中、授業は執り行われている。
 まあ、そんな日もあるか。そう思い、私はノートに向かう。
 ……まずった。ノートはまっしろしろののっぺらぼう。どうやら授業が始まってから私は一文字たりとも、ノートに取っていないらしい。
 慌てて黒板に目を移す。すると、黒板は真っ白。いや、真っ黒。何も書かれていないまっさらになっていた。
 これはもう友達からノートを借りるしかないか。そう思って見ていたら、ふと、違和感に気付く。
 授業中の黒板にしては、少し綺麗過ぎではないだろうか? そんなまっさらになるまで黒板を消す訳でもあるまいに、黒板は消し残し一つないまっさらの『のっぺらぼう』であった。
 コツコツ、先生は振り返る。
「――ぃっ!」
 先生の顔はなかった。ゆでたまごのようなつるんとした顔をこちらを向けている。
 思わず周りを見回す。すると、隣の大川君も、後ろの光本さんの顔もなかった。
 大川君と光川さんがこちらを見る。
 いや、顔がないのは彼らだけではない。クラス全員の顔がない。目も鼻も口もない、まっさらさらの卵顔――のっぺらぼうだった。
 のっぺらぼうたちはじぃっとこちらを見る。
 顔がないのに、彼らは一斉に笑った。ケタケタと首を揺らして笑い続ける――。

作品名:笑うのっぺらぼう 作家名:最中の中