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笑うのっぺらぼう

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笑うのっぺらぼう


 ――そいつには顔がない。
 私がその化け物と出会ったのは、月と星が群雲に隠れた薄暗い夜のことだった。
 顔のない顔が夜道の闇の中をユラユラと揺れている。そして、こう囁く。顔が欲しい、顔が欲しいと囁くのだ。闇の中で奴の声は反響して、まるで多くの声が囁いているようなのだった。
 そいつには顔がない。鼻梁も口腔も眼窩も彼は持たない。ただ、卵のようなツルツルとした顔があるだけなのだ。
 顔のない化け物は、顔を求めて闇の中を徘徊する。
 耳朶を叩く音なき声が、闇の中に木霊する。
 ――あなたは何者?
 ――私? 私ゃぁ顔なき化け物、のっぺらぼうにございます。

「のっぺらぼう?」
 また古風な怪談だと思った。
 友達の大崎が学校に持ち込んだコンビニのオカルト本に載っていた記事の一つに、のっぺらぼうの怪談があった。彼女はこんな与太話を好むタイプで、暇になればこうしてコンビニで胡散臭い話の載った本を買いこんでくるのだ。記事の見出しには、『現代に蘇る怪異、妖怪のっぺらぼうっ!』と血文字でデコレーションされていた。その内容がのっぺらぼうなのだから、微妙に愛嬌があったりなかったり。
「なんかこの辺にも表れ始めたって。ほんとなら会ってみたいよね」
「……遠慮しとく。そーいうの苦手」
「おやぁ、もしかして怖かったりしたり、したり?」
 失敬な。苦手なのは荒唐無稽な話の方だ。そういった微妙にウケを狙っているのは特に苦手だ。ただ、いくら否定しても信じてもらえないだろう。私は苦笑いの仮面を張り付ける。
 私は感情とは別の感情の仮面を張り付けるのが得意なのだ。妖怪百面相。
「そーだ。この後、駅前まで出かけようと思っているんだけど。着いてくる?」
「ごめん。今日はちょっと……図書委員の当番」
「そっかぁ、駅前辺りをうろついていると思うから、よかったらメール頂戴」
「分かった。時間に都合が付きそうだったらメールするよ」
 彼女と別れた後、私はその足で図書室へと向かう。司書の先生に挨拶を済ませると、私は返却本の整理を始める。
 最近はどうもホラー小説の貸出数が増えている。それと同じように、妖怪図鑑、怪談解説本などの貸し出しも増えている。もしかしたら、のっぺらぼうの記事は思ったよりも近しい噂なのかもしれない。
 今日もそれらの返却があった。私はその中から、妖怪図鑑に手を付ける。そして、のっぺらぼうを探す。
 のっぺらぼう。目鼻口の存在しない卵のような顔の妖怪だ。
 まあ、今日日のっぺらぼうもあるまい。妖怪なんかよりも後ろを付けてくる見知らぬ男の方が怖い時代だ。
 妖怪の時代は終わったのだ。そう私は見切りを付け、図鑑を閉じた。

作品名:笑うのっぺらぼう 作家名:最中の中